ちょっと怖〜い、お話/腕時計笑い話コーナー

この話は以前実際に、私の店であったお話です。カレンダーの修正方法を解説していて、ふと思い出しましたのでちょっと書いてみました。

それはもう今から10年以上も前の話ですが・・・あるお得意様のおじいさんが居られました。そのおじいさん当時で79才。民生員をされていた方で定年退職後の余命を地域の綱紀粛正の為にと高齢でありながら矍鑠たるお仕事ぶり。

夫婦喧嘩があれば飛んでいき独居老人がお困りと走り回り。一度は家庭内暴力の鎮静に行って右手がご不自由に。でも矍鑠とした方でした。

腕には愛用の時計。ご自慢の「キングセイコー」。「永年勤続記念」の刻印入りでそれもご自慢。

来店されるのは毎年、決まって2回のみ。「夏」にベルトの洗浄。「冬」は時計のオーバーホールの依頼。そして数日後に引き取りに来る事。
決まってやって来ては今のお仕事で最近の起こった話を楽しく話して帰られていました。年老いても息苦しさの無い爽やかな印象のお方。

いつも「夏」と「冬」。それがある年。「春」に来られました。

「○○君、ちょっと時計が遅れだしてなぁ。分解しといてぇ〜な」

「おや!去年末にした所ですのに、まだ春でっせ!」

「それがな、ちょっと落としたんや」って事でお預かり。

修理は無事に完了して4日後にお渡ししました。決まって年に2回の習慣が、たまにはずれる事もあるのだなぁ〜と。じいさんは頑張って生きているのだなと。
また「夏」にはベルトの洗浄に来店され、新しい話を聞く事を楽しみにしていました。

その「夏」お決まりのバンド洗浄に来店と思いきや。

「今度は進むんや、ちょっと見といて〜な」??。

そこでまたお預かり。いつもの職人さんに送って調べてもらうと

「磁気が帯びてるだけやし、最近オーバーホールもしているので今回は磁気抜きだけでOKでっせ!サービス」と。

後になって分かったことですが、どうやら最近になって磁気治療器を使い始めたらしいのでした。

「磁気抜き」も完了して、送られてきた時計は時間も合わせてあってピッタシ。
早速、出来上がりのお電話。ところがいつもなら電話すればすぐに来られるのにその時は7日たっても来店されない。

毎日、仕事を始める前にネジを巻いて待っていたのですが。それから5日たっても来店されず。
もうネジも巻かなくなってしまった日の翌日。奥さんが来店されたのでした。

ボクはおかしいなぁ、いつもはご自分で来られるのに今回は奥さんが・・・。と思いながら時計を手渡すと奥さんが。

「あら!修理に出していたのに止まっているのね?」と。

そこで、ボクは「毎日巻いて待っていたのですが、もう2週間以上も来られないので、つい巻かなくなってしまっていました、申し訳ございません。では、巻いて時間を合わせておきますね」と。

ところが!ネジを巻いても全く動かない!というか竜頭が空回り!

(ということはゼンマイが切れてる。これはオーバーホール翌日に起こっても不思議ではない症状で、
仕方がないのですが。これは素人さんから見れば、単に直っていないこと)

ご主人ならまだしも、奥さんでは・・どうやって弁解すれば良いのだ?と困っていたら奥さんが・・・

「もう、良いのですよ。心配なさらなくても。寿命ですから」と。

「いえいえ、とんでもございません。ただ磁気を帯びていただけで、故障ではないですから寿命だなんて、とんでもない。ゼンマイ換えれば問題ないですから」と言うと。

「いいの、もう良いのです。主人と運命を共にしたのでしょうね。きっと」

「えっ・・・運命を共にって・・・」

話を聞くと何でも「先日急に倒れてましてね。苦しむ事も無く、綺麗な死に様でした。やっと私も落ち着いたので、主人の形見を整理したんだけど、一番大事にしていた”お気に入りの腕時計”が無いのよ。でね、探していたらね。お宅の”預かり票”が財布から出て来たの。それで取りに来たのですよ」と。そこでボクは。

「そうでしたかぁ、それはお気の毒な事でした。闊達なお仕事ぶりが浮かびます。いつ、お亡くなりになられたのでしょうか?」と。

「先週の日曜でした。あの凄い暑い日があったでしょう。あの日、急に自宅で倒れてそのまま救急車で病院に行って・・・そのままでした。」と涙ぐみ・・・

そこでボクはふと、時計を見るとカレンダーは「日曜」「21日」時刻は11時20分。

「あのぉ〜、それは夜だったのですか?朝だったのですか」

と、聞きながら止まっていた時計の針を、11時20分からそろぉ〜っと、少し回します。すると長針が12時を回ってもカレンダーが動かない。って事はつまり”昼前”・・午前中・・・

「朝でした。食事も済んで出かける用意をしていたら倒れたのです」と涙ぐみ。

「あの、もしや倒れられたのが朝で、お亡くなりになられたのは・・・お昼前・・・・ですか?」

奥さんの顔に緊張が走ります。

「ええ・・・しかし何故・・それが・・あなたに?」

ボクはそっと、今進めた針を戻してから、その時計を差し出し。

「ご主人の時計が教えてくれました・・・・」と。

(これは断定は出来ないですが、おそらくゼンマイが切れたのは21日のご主人が倒れた時であっただろうと)

誰も居ないボクの仕事机の上で21日、朝。あのゼンマイが切れる「キュッン!」という音がしているところと、じいさんが倒れる姿を想像した自分がそこにあったのでした・・・

では、あの時ボクがネジを巻くのを止めずに、毎日巻いてあげていたら・・・じいさんは生き延びていたのかも?。いや・・・でも、巻く事によってもっと早くゼンマイを切っていたら・・・・・{{{{(+_+)}}}}

でも、この時計。こちらの希望で直させて頂きました。よってその後もおじいさんは「奥さんの腕で生き続けるのでした」

一気読み順路「娘へのプレゼントに新聞紙とは・・

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