父の感覚

「2006年7月15日」 

私の父は大正12年生まれ、今83才になります。

太平洋戦争にも出兵しておりますし、感覚的には「天皇陛下万歳」「親の言う事は絶対」「欲しがりません勝つまでは」が常識だった時代に育った訳です。そしてもう今の店も55年目になります。

また現役で店をしておりますが年齢的に物忘れがひどくなっております。まだ惚けてはいないので助かりますが、何でもやってみたい人です。私がオークション全盛期インターネットの世界を語ると”わしも見てみたい!”ってことで、店に”i Mac DV400”を置いてネット接続していました。操作が分からないので私のオークションのショートカットアイコンを作って、それさえクリックすればオークションが見られる様にしていました。

でも、エクセルやワード、キーボード操作などは殆ど出来ません、毎度毎度聞かれるとうんざりします。もう6年前の話ですが、パソコンの師匠にそれを言うと。

「でもなぁ・・・77才でパソコン触ってインターネットが見たいって爺さんが居るか?。見ようという意欲だけでも凄いぜ!」

確かに、それも言えますね。結局、6年触ってますがオークションがインターネットと今でも思っております。オークションとサイトの違いは当然わかりません。

そして今、私はオークションよりサイトでの「電池交換・修理」受付を始めました。

全国から腕時計が届く訳ですが親父には意味が分かりません。2006年の2月からですがその頃は明石に腕時計が着いていたので、親父には分かりません。もっとも何度も説明はしておりますが、何せ目に見えるものしか理解が出来ない人です。

よって引っ越してから腕時計が実際に自分の店に届く訳ですが、そこには「キヨセ時計店 様」となっておりますから親父は当然自分の事と思って開封します。

「何じゃこれ?メモで電池交換宜しくお願いしますって・・・。ほう・・・ホイヤーか・・・こんなのウチではやってないわ」って感覚ですか。

引っ越し当時、電池交換の荷物を勝手に開封して、出来ないからと”申し訳ござおりませんが勝手に腕時計を送りつけられても当店ではホイヤーの電池交換は受付しておりません。。”と一筆添えて私への荷物を送り返した事もありました。(v_v)

最近は慣れてきて、腕時計が届く状況と、私が電池交換している姿を見ておりますからようやく現状が認識出来ておりますが、サイトの事はさっぱり分かりません。

「おい、また荷物が来たぞ」っと開封し始めます。

「ちょっと待った!開けてはダメ!」

「なんでや?」

何たって電池交換の依頼で同じ日に3人の方がホイヤーを送られて来る場合も多々あります。これ勝手に開封されてしまうと、どれがどなたの腕時計か分からなくなります。そこで開封前には箱の送り状と、出てきた腕時計を一緒に撮影しておきます。これなら後で発送する時も間違いは起こりにくいわけです。

まして”片付け魔”ですから、親父が開封すれば即、箱は潰されてゴミになります。今もその片付け魔と一緒に仕事している訳でして、わたしの工具や明石から持ち帰った荷物を、片っ端から片付けて、片っ端から保管場所を忘れていきますから大変な状況になっております。

開封されては困る事を説明すると。

「難しいのやな・・・そんなのどうでもええがな」(どうでも良くない)

「まぁ、ええわ。それよりも3つも入ってるし片付けていこか、助けたるわ」

「だからダメだって!」

「何でや?」

「写真撮りながら電池交換しないと」

「ほな、写真撮ろうか」(マクロ撮影も知らないで出来ないって)

「兎に角!ボクの荷物は放ってくれたら、それで良いの!」

と、私が電池交換しているのを横で見ております。

「何や電池交換って分解掃除するんかいな」

「電池交換のみだけど」

「ほな、何で竜頭なんか抜くんや」

「そうする事になってるから」

「ネットの客はうるさい人が多いのやなぁ、そこまでさせるんか?」

「させられてるのや無くて、俺がそうしますって書いてるの」

「へぇ・・・それでこうやって全国から届くんか・・・」

「それをサイトで紹介してるからね」

「それでも頻繁に届くけど、そのサイトって月に宣伝費はいくら要るんや?」

「?????ほぼ”0”やけど」

「ネットってチラシ撒くのはタダか?、それはええな・・ウチのも撒いてくれ」

「誰がチラシ撒くのよ、サイトで紹介いてるの」

「ほな、そのサイト言うのは24時間ネット見てる人にコマーシャルで流れるんか?」

「あのね、サイト!。ホームページ」

「ホームページいうたらあの”市”の事やろ?」

「???市???、何じゃそれ?」

「お前、前に腕時計売ってた”競り市”と違うのか?」

「競り市!!!それはオークション!」

「ややこしいな・・・オークションで電池交換の値段を競るのか」

「あのね、ホームページ。ホームページはね、サイトと同意語で・・・何と言えば分かるのか・・・。つまり、店の宣伝・・・」

「ほな番組の間に流れるんか?」

「違う違う。ホームページでこういう電池交換をしてますって書いてるだけ」

「だけって、宣伝もなしで腕時計送ってくるんか、ほな勝手に住所探し出して、こうやって腕時計を送りつけてくるんか?何か情報の漏洩やっていうけど怖い世界やな・・・大丈夫かそんな訳のわからん奴に腕時計送らせて」

「ああっ!もうええわ、黙っててくれ電池交換が出来んわ」

「それでも電池交換に、そこまでしたら儲かるやろな・・・」

「儲からんよ、よっぽど数が集まらないと」

「いうてもそこまでしたら、5.000円くらいは取れるやろ」

「あのね、じゃ、聞くけどOHまでやっていくら貰える?」

「それもそうやな・・・それでもそこまでやったら3.000円くらい貰わんと合わんで」

「それが、1500円」

「えっ!?たった!!!!。アホかお前、止めとけ。そんな受付。そりゃ、そこまでして1500円やったら、誰でもやって欲しいやろ。技術の投げ売りは身を滅ぼすぞ。」

「でもな、往復の送料お客さん持ちよ」

「えっ、ほなお客さん電池交換に3.000円くらい掛けるんか?。まぁ・・・呆れるわ」

「いやいや、ここまでやると送料がどうのこうの計算する人は送って来ないって、腕時計を丁寧に電池交換して欲しい人だけが送って来ると思うから」

「しかしネットの金銭感覚どうなってるんや。そんなもの近くの時計屋行けば済む事やがな」

「その時計屋がね、今減ってるでしょう。車で30分走らないと電池交換出来ない人も多いのよ」

「でも、今日の荷物大阪の船場やで、時計屋が無いか?」

「しかし分からんのは、何で電池交換の為に送ってまで・・・ほな時計屋はネットで受付したら電池交換が来るんやったら誰でも真似するがな」

「それが意外に出来ないと思うよ」

「えっ、お前そのオークションの時から、何でも直ぐに真似されるって言ってたがな」

「だから、真似出来ないこと探さないと生き残れ無い訳よ」

「何でや真似出来るがな、時計屋なら電池交換受付って書いたらしまいや」

「オークションも5年ほどで、あかんわ言うてたけど。これもあかんな!」

「まぁ、それは言えるかもね。でも1年くらいは継続してみないと判断は出来ないよ」

「ええか、商売言うたらな。店があっての物や、店の客で食えなくて商売は成り立んぞ。手間掛けて安く受けて、そんな貧乏くじ引いたような商売やめとけ。オークションと同じになるぞ。」

何て言いながら、その後Cooの腕時計笑い話の様なお客様が入って来たら。

素っ気なく扱って説教して、帰らせてるから食えなくなって来てるのですが。

兎に角、負けん気と伊達が男気と思っております。スーパーにおかず買いに行っても、コロッケ10個くらい買ってきたりします。

「そんなにたくさん、一体誰が食べるの?」

「ふん!、そんなもん良いとした年寄りが恥ずかしくてコロッケ1個や2個で買えるかい」

と、なってしまします。

今、店では”腕時計の修理机が2つある状態です”。私が明石から持って帰ったものですが、店で電池交換のお客様は、どちらに差し出すか迷おります。皆、私にまかせれば良いのに、さっさと自分が受け付けます。

どちらで受け付けたって売り上げは親父のレジに入る訳で、まして私は家に帰ってから給料はまったく取っておりません。親子で能力給制度やっても意味がないですから。受付の取り合いをする意味が無いのですが。

もちろん親父に預ければ、裏蓋を開けて電池交換のみでポンと閉めて終わりです。

先日、どうやらサイトを見て来たか?って方が居まして。

「あの〜電池交換お願いしたいのですが」

さっと、親父が出て行って腕時計を受け取りました、お客様困った顔で私を見ております。

(*^^)ニコッ!慌てて親父の作業を見ながら。

「あの・・・竜頭をですね・・・」

「はっ?竜頭をどうしますの?」

「いや・・その・・竜頭を抜いてですね・・・」

親父は私のやること見てますから。

「ああ、竜頭抜いたら良いのですね」

と、タンタンと抜いて”チリ吹きでフッ!パチンと裏蓋閉めて

「ハイ、出来ました。1000円ですね」

お客様、私をじぃ・・っと。見て照れ笑いしながら。

「あ・・有り難うございました・・・」

メンテナンス電池交換して欲しかったのだろうな・・・

 

一気読み、次は「G-SHOCKのリセット」