腕時計の竜頭抜き

竜頭抜きは危険です/2004年7月(記述)

サイトで電池交換メンテナンスの様子をご覧になって頂きまして、
腕時計の掃除は裏蓋を開けてムーブメントを取り出してこそ
綺麗に出来ることはもうご理解頂いていると思おります。

ただムーブメントを取り出すには”竜頭を抜く”必要があります。
サイトでも一時は何種類か抜き方の説明をしていました。
でもいつでしたかサイトから写真を削除したのです。

その理由は掲載した僅かな写真で”自分も出来る”と、
商売にしようとする人が出てきたり。
また何でも方法は同じと真似して腕時計を壊す方が出てきたからです。
問題は僅かでも掲載すると腕時計の名前のみや、キャリバーで
「竜頭の抜き方を教えてください」とか「抜きましたが戻りません」などなど。
質問がくるからです。

全く無視するのも悪いですから、一応返事するのでが
”一行や二行で解説出来る物ではありません”。
するとこちらとしては、その度にメールの返事に数十分取られますから迷惑な限り。
また返信すると更に質問がきます。
無料サポートセンターやってる場合じゃない。それで削除してしまった訳です。

強いて一行で説明すれば「オシドリを押して竜頭を引く」です。

これだけの説明で済むならいくらでも返信します。
でもそれで誰でも分かるなら時計屋は誰でも出来るって事です。
また修行など積む必要もなにもありません。

これだけ前置きして。

ブランドウォッチ汎用ムーブメントですが。

この○がオシドリです。どんな腕時計でも竜頭の近くに必ずあります。

このムーブメントがオシドリ位置が一番分かりやすいでしょう。
「↑」で示してくれておりますし。これならほんと押して抜くのみです。
(最近はこのムーブメントも大量生産で仕上げが粗くなっているのか
コツを必要とするものがありますから厄介)

さて竜頭抜きですが、竜頭の近くにあるのは間違いないですが
パターンは軽く30種類はあります。
形状も位置もです。写真の様な分かりやすい位置にあるものは1割もありません。

また戻すときも腕時計によってコツが全く違おります。
簡単に言えば”押し込む”ですが。抜く時よりも戻す時の方がリスクが高いです。

竜頭を抜くとムーブメントと文字盤がポロリと出ます。
(7割は。残り3割は抜いたのみでは出てきません)
やった事がある方は分かると思おりますが取り出した文字盤とムーブメントを
触るのが如何に不安定なものか。

針もむき出しになりますから絶対触れてはいけません。
手先の器用さが無いかたは殆どの確率でケースから取り出した
文字盤&ムーブメントを摘み上げようとして落とすでしょう。
針が下向きに落ちたら”THE END”です。
そして取り出してる間はムーブメントはホコリに曝されます。

僕らでも竜頭を抜いてから戻すまでの緊張感は半端ではありません。
これは何故かと言えば作業自体は慣れればそんなに緊張しません。
ただ失敗すれば30分の無償労働が待ち受けているのと。
最悪は数千円の費用が飛びます。よって電池交換で竜頭を抜く人は居ないのです。
電池交換で1500円頂いて数千円の実費と1時間くらいの労力が泡と化します。
利益どころか損益ですから”はじめから受け付けない方が良かった” 受付になります。

竜頭抜きでの失敗例は

※ 抜くときに竜頭を曲げる。
※ 文字盤&ムーブメントを指で持とうとして落とす。
※ 針にふれて曲げる。
※ コイルに触れて切る。
※ オシドリレバーを変形させる。
※ 針を廻すために連動したツツミ車を外す。

この下の2行は慣れないと、そうなった事にも気が付きません。
また修理するには針と文字盤も外さなければいけません。
この状態になった腕時計を修理で受け付けるには”OH”として
お預かりするしか無いのです。

つまり竜頭抜きは上手くいけば問題ないですが、
失敗した場合「竜頭抜き=分解掃除」となります。
「ムーブメント交換の方が早い壊れたものも多々」

また慣れない方が触った腕時計は意外に、必要の無い箇所を触っておりますから
必要以上に修正箇所などが出て来ます都合上、
割高になることは覚悟しておいてください。
(触った事すら気が付いていない場合が殆どです)

ムーブメントを取り出すと言うことは、それなりに使用している事になります。
普通、竜頭を抜くのは「ガラス交換・針交換・竜頭交換・ムーブメントのパーツ交換」
の必要性が無ければ竜頭は抜きません。

私みたいに電池交換の為に竜頭を抜く事は、必要以上のリスクを背負おります。
かなり愚かな行為とも言えますね。
同業からみればかなり馬鹿な行為と思われても当然のことをやってる訳です。

一度か二度やって成功した方。こういう方が一番怖いのです。
前にも説明したフェイク品や雑貨ウォッチほど竜頭抜きを失敗する確率が高くなります。

言い換えれば私の経験から20万を超える腕時計で失敗した経験はありません。
それは作りがシッカリしているからです。
3万円以下くらいの使用された腕時計になると100回抜いたら2回は失敗します。
コイル切りは1000個くらいやって1個あるかないかですから、かなり確率が高いです。

慣れない方が行うと100回抜いたら30個は失敗すると思ってください。

結果「竜頭抜きはOHを覚悟で行う」。
そこを覚悟しておけば大胆に出来て失敗の確率が減るかもしれないです。

さぁ、”それでもアナタは竜頭を抜きますか?”

失敗して「ムーブメント交換」のご依頼、お待ちしております。

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