スライドバックルが流行った理由(2004年7月(記述)

先ずは、廃れる前に流行った理由からですが。

腕時計のバックルとして1980年頃までは一世を風靡したスライド式バックル。
1980年頃といえば、もうクォーツ時計はあたりまえの頃!
クォーツが当たり前になると、今度は如何に薄型のクォーツを作るか!
そういう風潮に突入していった時代でした。
そうなると当然ベルトもその薄型クォーツのデザインにそぐわないと
腕時計のトータルバランンスがとれない、イコール売れない。
そこで開発されたのがこの「スライド式バックル」だった訳です。
だがそれだけではない腕時計メーカーサイドの思惑が・・・

その思惑とは。このスライド式バックル。ベルト調整が実に簡単なのでした。
おまけに特別な工具さえ要らない。
ん!?それがどうして「腕時計メーカーの思惑」なのか?
まぁ、焦らないで聞いてください。
それだけ時計店にとっては語るにもつらい話もしなくてはならないのですね。
「廃れた」と言うことは流行っていたという事の証ですが、
廃れる前に流行った理由が分からないと、廃れた理由もピンとこないのです。

/////腕時計バックルの「スライド式バックルが流行った理由」/////

「簡単にベルト調整が出来る」=「素人でもベルト調整が出来る」=「時計店でなくてもベルト調整が出来る」と言うことです。
ここまで読んで、流行った理由がもうピン!と来ましたか?
つまり”時計店でなくても”ここに理由がある訳です。

「腕時計業界の流れ」

当時の腕時計業界の流通ルートと販売方法からお話ししましょう。
1980年頃までといえば、まだ腕時計は「時計店」でしか買えなかった時代です。
量販店や大手家電店などが扱う事は想像もつかなかった時代ですね。
(扱い始めてる所は既にはあったが)

それ迄は腕時計と言えば「機械式腕時計(ぜんまい腕時計)しか無かった訳ですが
(もっともいきなりクォーツ腕時計の時代に移行した訳ではなく、
電子腕時計や音叉腕時計へと経緯は踏んでは来ました)。

今のクォーツ腕時計が当たり前の世代には理解しにくいかもしれないです。
機械式腕時計の時代は当然、電池交換は要らないが
定期的なメンテナンスが必要であった訳です。

またいつの時代でも同じですが、一般大衆というものにとって腕時計は
「時刻を知る」ただそれだけの道具です。
だから中身の特性なんて考えないで使ってる人の方が多いわけです。
よって壊してしまったり、時間の誤差が大きくなり
誤差が大きくなり使いにくくなる事は多々あります。
その時は時計店に持って行くしか仕方がない。そんな時代でした。

もし腕時計に修理が必要になった時、時計店が無ければ?
これは腕時計メーカーに送るしかありません。
時計店の存在が無くては、ベルトの調整や、ガラスの交換だけでも
腕時計はメーカー送りとなればどうなるのか?
それではメーカーさんはパニックなってしまおります。
よって時計店の存在が無ければアフターケアもメンテナンスも出来なかった時代でした。

それに腕時計の「販売員」と言えば昔は「イコール時計職人さん」。
つまり腕時計メーカーにとって販売される場所が「時計店=販売員=腕時計職人」
こういった図式が成り立った訳です。

すると当然、腕時計職人さんに気に入って貰えなければ腕時計は売れない訳です。
腕時計マニアの方なら昔の機械式腕時計のムーブの美しさや
組み立て工程が実に凝った物である事は承知と思われますが、
これは腕時計メーカーさんにとって「エンドユーザーよりも時計職人を意識」したのです。
そう、「腕時計職人に気に入って貰えなければ腕時計は売れない」そんな時代だったのです。

ところが!セイコーウォッチがクォーツ腕時計の発明
(この大発明によってセイコーは後に自らの首を絞める結果になろうとは・・・)
そして腕時計は薄型へと!また、電子化へと!それに先にも書いたデザイン性。
つまりファッションアイテムへと!。

それに極めつけが、この頃から一世を風靡しだした「デジタルウォッチ」でした。
こうなればもう時計職人では、ついては行けなくなって来ました。
今でもオークションでは、そんな時代の「スライド式」ベルトが付いた
CASIOやSEIKOのデジタルウォッチを見ると、じつに懐かしい。

そして、それ以前の昭和48年頃「田中 角栄」が唱えた「日本列島改造論」から。
まさしく日本は高度経済成長をひた走る時代へ。
そうなれば腕時計メーカーはもう時計店に販売を任せていても追いつかない。
それくらい「作れば売れた」。そんな時代でした。

それに同調するかのように、腕時計も電子化が進むと時計職人よりも電気の知識。
また時計職人は販売の拡大なんて真剣に考える訳もありません。
また、時期を同じくして量販店が雨後のタケノコのごとく乱立して来た訳です。

腕時計のメーカーサイドから見れば量販の方が販売にかけては強い。
時計職人の比でない事は事実。時計店以外が腕時計を売る。
しかも大量に!こうなると「腕時計を売るのは腕時計の知識など無い者」が
増えて来るのは自然な成り行きです。もちろんベルト調整も!

よって腕時計の「ベルト調整は誰にでも出来る」それが売れる条件に変わってきました。
この続きは「スライド式ベルトの腕時計が廃れた理由」へと続く。

 腕時計バックルの種類に戻る 2017.6.14修正